1月に渡欧し、スイスのチームハウスを拠点に本格的なロードレースシーズンを迎えた織田聖。2月初旬からUCI2クラスのレースをすでに10レース走破し、上位グループでフィニッシュする活躍もみせている。
U23シクロクロスチャンピオンの経歴をもつ22歳の織田がいま感じていること、そしてその視線の先にあるものとは?
チームに合流して2ヶ月。チームの印象は?
初めてのコンチネンタルチームが海外籍で良かったなというのが率直な感想。
自転車競技のトップはヨーロッパにある。クラブチームからコンチネンタルチームに上がるのなら、日本のコンチネンタルチームに所属するのも良いと思ったけれど、自分は日本のコンチネンタルチームとフランスのアマチュアチームは競技の頂点から逆算すると同じくらいの立ち位置だと考えている。その上にヨーロッパのコンチネンタルチームがあり、そしてワールドチームまで順番に上がっていく。なので、今回、一つジャンプアップして、日本のクラブチームからヨーロッパのコンチネンタルチームに来れたことは良かったと感じている。
チームの年齢層はみんな自分と同じくらい。みんな若くって、どちらかというと自分が年長カテゴリーに部類されるくらい。そういう意味では焦りを感じていて、早く上のチームに上がらないといけないという気持ちにさせてくれる。あとはチームトレーニングもできて、レース数もコンスタントにある。すごく恵まれた環境だと思う。
ヨーロッパのUCIレースを走って感じていることは?
2019年にフランスのDN3(アマチュアカテゴリー)で走った経験があるが、これまでに出場したUCIレースはナショナルチームで出場したイタリアのU23レースやジャパンカップくらい。そして今年はヨーロッパに来て、UCIレースをどんどん走っている。ヨーロッパのUCIレースは日本のレースとは年齢層も違うしレースの距離も違うので、一概に比べられないレベルだと考えているが、一番最初に感じたのは集団内の密度がとても高いこと。それに一番驚かされた。もちろんレースのスピードや展開も速い。でもそれはダメだという絶望的な感じではない。初めてJプロツアー(JBCF)を走った時の気持ちにも似ていて、早くそのレベルに適応して、結果を出そうと、やってやろうという気持ち。
チーム監督のアルバジーニ氏がパーソナルコーチも務めていますが、彼の印象は?
自分にとって初めてのコーチ。自分のデータをしっかり見てくれて、トレーニングメニューも毎日見てくれている。これまでにこういう経験はないので、まずは素直に半年くらい彼の言うことをすべて聞いてやってみようと思っている。このトレーニングがどういう意味をもつのかなども勉強しながら、どんな結果に繋がっていくか楽しみにしている。
マルチェッロ・アルバジーニ (Marcello ALBASINI)監督 略歴
長年コーチとして選手の育成に携わる。のちに世界チャンピオンとなるジュニア時代のファビアン・カンチェラーラや、今季ワールドツアーで初勝利を挙げたシュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO)を育てた経歴をもつ。2003年から2020年までプロ選手として活躍したミハエル・アルバジーニの父親。
〜2020年 スイスナショナルチーム監督(2021年からは元プロの息子ミハエルが就任)
2013-2016年 IAM Cycling(プロチーム、2015年〜ワールドチーム)監督
2009、2010年 Cervelo Test Team(プロチーム)チームマネージャー
チームメートはどんな選手たち?
同い年の選手が自分以外に3人いる。ケビン・クーンはおなじみのシクロクロスのスーパースター。ノルウェー人のイブル(クノッテン)は英語堪能だし、いつもいろいろと面白い。彼はずっとノルウェーのコンチネンタルチームで走ってきたので、経験値がぜんぜん違う。シュモン(トラッチ)もCCCデベロップメント、その前はOne Pro Cycling(コンチネンタルチーム)とかで走っている。同世代で見ると、明らかに自分が経験値として一番底辺にいる。チーム全体で見ても、ジュニア上がりの十代のメンバーと同じレベル。
彼らとは一緒にチームの寮で生活しているが、自転車に関しては学ぶことしかない。それぞれ3年くらいコンチネンタルチームで走ってきて、おのおの自分のスタイルが確立されているので、良いところを真似してどんどん吸収していきたい。
ロードレースに打ち込む転機となったのは?
2018年にJプロツアーでピュアホワイトジャージを獲れたことが大きかった、そこから色々な方のサポートでフランスのアマチュアレースを走ることができた。フランスのアマチュアレースって、翌年からプロになるような選手と一緒に走ることができる。そして、そのような選手と近い順位で走れた経験から、「これだったら可能性はあるんじゃないか?」と思い、ロードレースと真剣に向き合う気持ちになった。
その頃、シクロクロスのトップ選手がロードチームと契約したり、大きなレースで勝ったりしていた。やっぱり、シクロクロス選手は、ロードレースでも走れないといけないし、ロードでないと稼げないというのもわかったので、すぐに気持ちは切り替わった。
今後の目標は?
今季中にUCIレースでトップ5、できれば表彰台、できれば優勝、、、と考えているが、まず目先の目標はUCIポイントを獲得すること。たまにチラチラと(ポイント圏内でのフィニッシュが)見えるが、まだ遠い。
その後は上のチームに上がることを考えている。トレーニー制度を使ってでも、早く上のチームを経験したい。自分の位置を把握して、客観的に見ていきたい。
今後はロードレースがメインになると思っているが、シクロクロスはやめない。ロードレースにおいて、シクロクロスの経験は必ずプラスにつながるのでやめないと思う。でもロードでないとプロ選手として稼ぐのは難しい。そしてヨーロッパのプロを目指すなら、現在のレベルのコンチネンタルチームでは長くてもあと2年、3年。そこでステップアップできなければ厳しいと考えている。
現在のスイスでの生活で楽しいことは?
英語を覚えることが楽しい。レース中の英語って雑音が混ざっている英語になるけど、そういうのが聞き取れるようになると楽しいと感じる。トレーニングの用語とかも専門用語になるので、けっこう大変だけど、少しずつ覚えていっている。英語を習得するには話すしかない。シュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO)にも言われた。「お前は一生懸命、英語を話せ」と。
同い年のビッセガーとは、一度、一緒に練習する機会があった。彼と練習だけでなくてレースでも同じ舞台で走りたい。そのためには上に上がるしかない。日本でワールドチームの選手が近くに住んでいるような環境はない。そのような面でも恵まれた環境。ぜったいにいつか抜かしてやる!と思いながら、いつも練習しています。