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エンリコ・ガスパロット“監督”インタビュー「人生のゴールは自分の経験を若い選手たちに伝えること」

2020年12月、38歳でプロ選手を引退したエンリコ・ガスパロット(2019年にイタリア籍からスイス籍に変更)氏が、引退後、最初のステップとしてアシスタント・スポーツディレクター(監督)として、新しく誕生した育成チーム「NIPPO・プロヴァンス・PTSコンチ」チームに加わりました。選手に近く、明るい性格でムードメーカー。現場監督デビューとなったトルコ遠征では、選手やスタッフたちに気を遣い、頼もしくチームをまとめあげました。

アムステルゴールドレース(UCIワールドツアー)での2回の勝利をはじめ、プロ通算10勝、グランツール14回出場など、輝かしいキャリアをもち、日本での知名度も高いガスパロットが、どのような思いからチームに加わり、また将来をどのように見据えているのか、インタビューしました。

ー このチームに来ることになったきっかけは?

もともとロビー(ロベルト・ハンター/NIPPO・プロヴァンス・PTSのマネージャー、選手エージェント会社PTGの責任者)と自分はよい友達なんだ。彼は選手時代、自分のエージェントをしてくれていたし、妻の仕事仲間でもある。去年の11月下旬から12月にかけて引退を決めたとき、すでにアルバジーニがロビーとともに、このチームを立ち上げることが決まっていた。なので、ロビーにチームのビルドアップを手伝いたいと申し出た。そしてすぐに1月に南フランスで実施されたチームキャンプに参加したんだ。

いま自分はRCSの仕事もしている。ジロ・デ・イタリアでは選手の安全のために、オートバイに乗ってレギュレーターとしての仕事がある。なので、選手たちのレーススケジュールと合わせて、自分たちの役割分担やスケジュールを決めていった。

そして今回のトルコ遠征に行くことになった。本来は遠征1戦目のコンヤでのステージレース(ツアー・オブ・メヴェラーナ)だけ、自分が担当をする予定だったが、急遽、滞在を少し延長し、ツアー・オブ・ターキーの最初の数ステージ、チームに残ることを提案した。大きなレースだし、ステージレースの最初はいつだって“カオス”な状況になるのは予想できたからね。自分が残ることで、チーム全体のためになると考えたんだ。

今回の経験にはとても満足している。ツアー・オブ・メヴェラーナでは、チームは新人賞を獲得することができた。若手育成チームにとって、このような賞を獲得することは大きな意味をもつ。それを獲得できて、とても嬉しかった。

ー スポーツディレクターになるという選択肢はいつ頃から考えていた?

選手をやめる前から、スポーツディレクター(監督)になることを考えていた。とくに若い選手の育成に興味があった。すべての始まりは、2019年、ディメンションデータに所属していたとき。友達であり、メンターでもあるロルフ・アルダグ(現バーレーン・ビクトリアス スポーツディレクター)と何が自分にとって一番よい道かということをよく一緒に話していた。自分の性格やキャリアなども考慮して、将来についてのアイデアを組み立てていたんだ。

でもそこには自転車業界で働く選択肢しかなかった。なぜなら自分には16年間のプロフェッショナルキャリアで得たたくさんの経験があるから。自分にとって、人生のゴールは自分の経験を若い選手たちに還元することだと思う。自分の経験を活かせば、若い選手たちが失敗することを避けられるのでないか? と思っている。最近はプロ選手のキャリアが短くなる傾向がある。だからこそ、いずれかの方法にて、若い世代の選手たちのためにできることは多いと思う。それは自分が本当にやりたいと思うこと。

スポーツディレクターとして自分は新人。たくさんのことを学ばないといけない。アルバジーニと働くことで、たくさんの経験を得られる可能性がある。このラーニングプロセスをチームキャンプから始めた。

ー 将来、ずっとスポーツディレクターとして働いていく?

現時点で、将来の可能性、自分の未来についての決断をすることは早いと思う。NIPPOの理念やアイデアは興味深く、また自分の人生における可能性の有無をチェックしているけれど、いま自分は自分がとても好きなことをやっていて、いくつものドア(可能性)が開いていると感じている。このチームは目標に向かって、大きなモチベーションに満ちている。わずか数ヶ月前に活動を開始し、それもパンデミックという普通ではない状況下で多くの困難にも直面している。しかし、アルバジーニの構想は素晴らしく、もっとこのチームをよく、大きくしていこうと考えている。たとえばアルバジーニの構想に沿って、ロングターム(長期間)の目標を達成していくことはとても重要であり、とても興味深いこと。このようなロングタームのプロジェクトにおいて、始動時に関わることは大きな意味をもつことだから。

ー このチームの良いところはどこだと感じている?

まず初めに、このチームの良いところは、選手たちがさまざまな国から集まっているということ。さまざまなバックグラウンドをもった選手たちは互いを知り、学ぶことができる。それは簡単なステップではないかもしれないけど。これまでいくつかのワールドツアーチームで自分も経験してきたが、たとえばディメンションデータでは、選手、スタッフはすべての大陸から集まっていた。そのような場合、いつも高いレベルでの信頼を築くためには多くの時間がかかった。ワールドチームとコンチネンタルチームとの違いを比較すると、コンチネンタルチームの選手たちはとても若い。彼らにはまだフィルターがなく、マインドがオープンだと感じている。文化や言葉、育ってきた環境などが違っても、お互いを知ることは、ワールドチームの場合と比べて、とてもイージーだと思った。それは素晴らしいことだと思う。1月のチームキャンプでその光景を見て、ちょっと予想していなかったことでもあり、驚かされた。

そしてもう一つは、皆が助け合ってチームスピリットを構築していこうとしているところ。お互いに助け合って目標に向かうことは自分のゴールでもある。最近のロードレースは全般的にテクノロジーの要素が大きくなってきている。ワット数がどうであるとかが、人間同士の繋がりよりも重要視されるようになってきている。けれど、自分は若い選手には人間関係も大切にしてほしいと考えている。このチームの選手たちはみんな友達と言えるような関係があり、その光景は素晴らしかった。チームキャンプや、ツアー・オブ・メヴェラーナでもそのような場面に触れて、とても嬉しく感じた。みんなで相談しながらチームの作戦を考えたり、コンチネンタルレベルの若い選手たちはベテラン選手よりもよく話を聞くので、自分としても経験を伝えた。その結果、選手たちは素晴らしい走りをし、目標を達成した。そのような点がコンチネンタルレベルで、自分が良いと思うところかな。

ー 最後に、日本の思い出は?

2017年に一度だけ、ホリディで自分の良き友達“ナカ(マッサージャーの中野喜文氏)”を訪ねたことがあるんだ。妻と一緒に東京に向かい、京都にも立ち寄った。京都でも美しいお寺に行き、旅館に泊まったり、本当に素晴らしい経験をしたけど、最高の思い出を挙げるなら、ナカが観光客向けではないローカルなレストランや伝統的なサウナなどに連れて行ってくれたこと。本当に楽しかったし、忘れられない時間を過ごすことができた。またぜひ日本に行きたいと心から思っているよ。

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